平成15年度第2回KSMAP


日時:7月11日(金) 15:00〜18:00

場所:京都大学 工学部8号館共同6講義室

講演題目と講演者:

「情報伝播の高速性に挑む自律分散型ネットワーク制御技術について」講演要旨

・ 会田雅樹
  (日本電信電話株式会社 NTT情報流通プラットフォーム研究所)

・ 高野知佐
  (NTTアドバンステクノロジ株式会社 トラヒックエンジニアリング事業部)

講演要旨:


本発表は,通信ネットワークの高速性(伝送路帯域の高速性,コン ピュータウィルス拡散の高速性等)に起因するネットワークの不安 定化要素に対して,安定動作を維持するための制御メカニズム構築 に向けた取り組みについて述べる.本発表は以下の二つのパートか ら構成される.

(1) 情報伝播特性の基礎となる人間関係の構造とユーザの振舞いの 特性の解明について: 通信ネットワーク上での情報交換は,人間関係の特性を反映し た構造を持っている.人間関係は工学的な設計対象では無く, 個々の人間の活動を通して自律的に形成される.このように複 雑な人間関係の構造を調べるためには,非常に広い社会的集団 を対象とした調査を実施する必要がある. 我々は,これを簡単に行なう手段として,iモード普及初期に おける通信トラヒック量と契約者数の関係という極めて単純な データを分析する方法を開発し,人間関係のグラフ構造と,ヒッ ト商品に対するユーザの購買行動の規則に関する情報が導出可 能であることを示した.結果として,人間関係を表すグラフは スケールフリーネットワーク(その次数分布のベキは約 -2.22) であり,iモードへの加入はリンクの多いノード(友人の多い 人)から順番に行なわれる傾向を見い出した. この結果により,情報やコンピュータウィルスの伝播特性に関 して,人間関係のグラフを利用することで詳細な分析が可能と なる.また,トラヒック分析により,ある種の通信サービスが ヒット商品となるかどうかを早期に判定できる可能性があり, マーケティング戦略への展開も期待できる.

(2) 超高速で動作する自律分散型ネットワーク制御方式について: 伝送路帯域の高速化やスケールフリーネットワークに起因する 情報伝播の高速化は,ネットワーク状態の制御に要する制御遅 延に対して厳しい制限を課す.このため,ネットワーク全体の 状態情報収集を前提とする枠組みの制御では,制御遅延の要求 に応えることができない.我々は,ネットワーク内のノードが 自分自身が知りうる局所動作に基づいて高速に動作し,その動 作が間接的にネットワーク全体を良好な状態に導くタイプの制 御法の確立を目指している.このためには,ノードの動作規則 として予め設計しておく局所動作と,その結果実現される大域 的な状態との間の関係を精密に結び付ける必要がある.本研究 で扱う具体的な制御方法は,実現すべきネットワーク全体の状 態を局所相互作用を持つ微分方程式の解として表現し,その局 所相互作用を模擬してノードの動作規則を決定する方法である. これにより,各ノードが局所情報に基づいて自律的に動作する にもかかわらず,それらの動作の相互作用により,ネットワー ク全体として良好な状態を実現することを目指す.例として, ネットワークのフロー制御技術を考えてその効果を示すと同時 に,コンピュータウィルスの拡散速度を抑制する技術への応用 について述べる.

最後に,上記二つの研究テーマの成果を組み合わせた今後の研究の展開予定について述べる.


26名の方々に御参加いただきました.御礼申し上げます.
巳波弘佳(Hiroyoshi Miwa)
最終更新作成日時:2003年7月14日