平成10年度第2回KSMAP
第2回はM1諸君に卒論のテーマについて話してもらい,
若手の交流を深めようという企画で行いました.
日時:平成10年6月12日(金) 15:00〜17:00
場所:大阪大学基礎工学部(豊中キャンパス)
4階 システム考究室
大阪大学へのアクセス
講演題目と講演者:
「ラグランジュ緩和法と遺伝的アルゴリズムを併用した組合せ最適化問題の近
似解法とその鉄鋼生産プロセスへの応用」
中尾明博(大阪大学大学院基礎工学研究科 システム人間系専攻)
「環境税が経済システムに及ぼす影響の評価」
上杉恵一郎(大阪大学大学院基礎工学研究科)
「ANP (Analytic Network Process) における正規化手法の提案
A Normalization Procedure in Analytic Network Process」
嵯峨山洋介(大阪大学大学院基礎工学研究科)
「数値データに対する誤差に頑健なカット点導入アルゴリズム」
山田敏明(京都大学大学院情報学研究科)
「階層型ニューラルネットワークの学習アルゴリズムについて」
森山裕之(京都大学大学院情報学研究科)
講演アブストラクト:
「ラグランジュ緩和法と遺伝的アルゴリズムを併用した組合せ最適化問題の近
似解法とその鉄鋼生産プロセスへの応用」
中尾明博(大阪大学大学院基礎工学研究科 システム人間系専攻)
組合せ最適化問題の必要性が様々な分野において高まってきているが,計算量
の多さなど,求解が非常に困難となる要素がいろいろとある.それの克服にも
現在の計算機では限界があり,最適解を求めるのではなく準最適な近似解を求
める研究も多々成されている.実際問題として解が完全な最適値でなくても構
わない場合が多い.そこで本研究では,まず一般的な組合せ最適化問題の理論
とそこで扱う鉄鋼生産プロセスの概略について触れる.そして本問題では近似
解を求めるにあたりラグランジュ緩和法と遺伝的アルゴリズムを併用した一手
法を使い,その一般的解法や特徴を述べる.
その上で具体的な鉄鋼生産プロセスの問題を取り上げて定式化を行い,ラグラ
ンジュ緩和法と遺伝的アルゴリズムを利用した近似解法を述べる.最後にその
問題を実際にプログラミングして結果を出し,緩和問題を用いて解が徐々に最
適値に近付いていくこととそのスケジュールがどれほど効率良く成されている
かを併せて示し,その検討を行う.
「環境税が経済システムに及ぼす影響の評価」
田村坦之・○上杉恵一郎・富山伸司・鳩野逸生(大阪大学大学院基礎工学研究科)
本論文では,現在導入の必要性がさけばれている環境税が,経済システム,
特に価格と国際競争力に及ぼす影響の評価を行った.価格の上昇については産
業間の依存関係が深く係わってくるため,その依存関係を表したものとして産
業連関表を用いモデルを作成した.また,国際競争力については,作成したモデ
ルを国ごとの依存関係を表していると言える二国間産業連関表に適用し評価を
行った.
「ANP (Analytic Network Process) における正規化手法の提案
A Normalization Procedure in Analytic Network Process」
田村坦之・○嵯峨山洋介・鳩野逸生・富山伸司(大阪大学大学院基礎工学研究科)
本論文では,階層化意思決定法(AHP)発展させた手法であるAnalytic
Network Process(ANP)の問題点を挙げ,それに対する改良案を述べる.
ANPでは,代替案の選好順位の逆転が,起こってはならない場合に
も起こることがあり,この問題に対する明確な説明が行われていない.
本論文では,ANPによる意思決定の基本手順を示し,選好順位の逆転が,起こっ
てはならない場合に起きてしまう原因の一つである,評価基準の重要度をその
和が1になるように正規化するということの問題点を述べ,その問題に対する
改良案として,意思決定者の希求水準を代替案の中に加えることで得られる代
替案の満足度を定義する.このことにより,起こってはならない選好順位の逆転
が防げることを示す.また,この希求水準を適用した場合にも選好順位の逆転
が起こるような例をあげ,その場合の逆転に関する解釈を述べる.
「数値データに対する誤差に頑健なカット点導入アルゴリズム」
山田敏明(京都大学大学院情報学研究科)
数値データ集合としてある事象を引き起こす例(正例)$S^+$と、引き起こさない例
(負例) $S^-$ が与えられたとき(ただし $S^+ \cap S^- = \emptyset$)、適当な
カット点 (cut point) を導入して、数値データベクトルを2値化、つまり、対
$(S^+,S^-)$ を部分定義論理関数 (partially defined Boolean function; pdBf)
$(T,F)\ (T \cup F \subseteq \{0,1 \}^d)$ に変換したのちデータを論理的に解析
するというアプローチがよく行われる。
ここでは、カット点による2値化に際して、従来の定義を一般化し、各属性$j$のとる
値が対応するカット点より十分(すなわち $\varepsilon_j/2$ 以上)隔たっている
場合にのみ0あるいは1の判定を行うように改めた。すなわちカット点との差が
$\varepsilon_j/2$ 未満ならば不完全ビット $\ast$ として処理し、0と1のどちらの
値をとるか不明と判断する。
このとき、得られた不完全ビットを含む部分定義論理関数(partially defined Boolean
function with missing bits; pBmb) $(\tilde{T},\tilde{F})\ ( \tilde{T} \cup
\tilde{F} \subseteq \{0,1,\ast \}^d$) がロバスト拡大(robust extension)を持つ
という条件のもとで、各属性に対する余裕度 $\varepsilon_j$ をできるだけ大きくす
ることが望まれるが、これをいくつかのタイプの集合被覆問題として定式化し、いく
つかの近似アルゴリズムを適用した。
現実のデータに対する実験では、 $\varepsilon_j$ の値をかなり大きくとれる属性が
相当数存在すること、大きな $\varepsilon_j$ を用いる場合、必要となるカット点の
個数が増加することなどが観測された。
「階層型ニューラルネットワークの学習アルゴリズムについて」
森山裕之(京都大学大学院情報学研究科)
階層型ニューラルネットワークに対する学習アルゴリズムとして有名な誤差逆伝播法は, 実現させ
たい複数の入出力のパターンに対して ニューラルネットワークの出力とその目標値 (教師信号) と
の誤差を小さくするように, 各層間の結合係数を反復的に修正していく手法であり, 各反復において
全パターンに対して修正を行う一括修正法と各パターンに対して順次修正を行う逐次修正法の2つの
手法があります。
一般的に言えば、 関数 f(x) = f_1(x)+ ,,, + f_m(x) の最小化を考えるときに f(x), ▽f(x) を
もちいるのが一括修正、 各 f_i(x),▽f_i(x) をもちいるのが逐次修正と言えます。単純に考えれ
ば一括修正の方がよさそうですが、現実問題での応用となると逐次修正が活かされる状況というもの
があるようです。
さて、通常の誤差逆伝播法は一括型、逐次型ともに最急降下法に基づく修正法であるため,必ずし
も学習速度は速いとはいえず、 さらなる高速化手法として一括型のGauss-Newton法、逐次型の拡張
カルマンフィルタが挙げられます。しかし、拡張カルマンフィルタは比較的よい結果は得られるもの
の、誤差逆伝播法と同等もしくはそれ以上に収束の速さがパラメータの設定に敏感で、その収束の速
さはパラメータによって大きく変わります。そこで、パラメータと収束性の関係、最適なパラメータ
の設定法を中心に、実験データをもとに検証します。
28名の参加がありました.参加していただいた方々,
どうもありがとうございました.
柳浦 睦憲(yagiura@kuamp.kyoto-u.ac.jp)
<最終更新作成日時 1998年6月18日 >