ディジタル画像アルゴリズム
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第2回   ディジタル画像アルゴリズム


この研究会は,ディジタル画像処理が特殊なデータ構造に対する特殊な操作であるにも
かかわらず,多様な応用分野とかかわりをもつ横断的な技術であることに着目し,
アルゴリズム技法をディジタル画像処理に生かす方向と,ディジタル画像処理の知見
をアルゴリズム工学に役立てる方向の両方向の研究交流を目的として企画した
ものである.6月26日(月)の午後1時から5時まで,名古屋大学豊田講堂第2会議室に
おいて開催され,5件の講演が行われた.各講演の概要は次のとおりである.


1. 今井浩,稲葉真理,安部直樹(東大)

「2点間交通流解析での画像処理の活用」

道路に沿って数キロメートル離れた2地点での交通流の画像データから,個々の
車輌を対応づけることによって,車の流れを計測するシステムの研究課題について
紹介された.主な課題は,動画像から,車輌1台ごとの領域を切り出すことと,
2地点で切り出した車輌のマッチングをとることである.前者は,車の向き,
速度,影のでき方,天候による画像の多様な変化などに対応しなければならない
難しさがある.後者は,車輌の間の順序がほぼ保たれるという期待のもとに
DPマッチングの利用が考えられるが,画像同士の対応の強さを測るための距離の
定義などの難しさがある.これらの困難を克服する一方法として,最小費用流問題
への定式化のアイデアなどが示された.この講演は,画像処理の応用の立場から,
アルゴリズム分野へ研究課題を提供するものであった.


2. 小林景,杉原厚吉(東大)

「結晶成長ボロノイ図の近似計算とその競合ロボット経路探索への応用」

結晶成長ボロノイ図は異なる速度で結晶が成長するときできる空間分割パターン
であるが,2点間の距離が,すでに成長した結晶領域を避けて回り込む経路の
長さで定義されるため,図形を解析的に求めることが難しく,近似計算にたよらざる
を得ない.アルゴリズム設計におけるこの課題を解決する一つの方法として,
ディジタル画像処理分野で知られているある種の偏微分方程式の差分解法を
利用することを提案し,その有効性を計算実験で確かめた.これにより,結晶成長
ボロノイ図が比較的精度よくしかも高速に求められ,さらに,複数のロボットが
悪意をもってじゃまをしようとする環境で,それを避けて現在地から目的地まで
移動するロボットの最適経路探索に利用できることも示された.この講演は,
ディジタル画像処理の知見をアルゴリズムの設計に応用するものであった.



3. 平田富夫,櫻井敦(名大)

「効率良くモルジフォルジ演算を行なえるフィルタのクラスについて」

講演者が以前に提案したユークリッド距離に基づく距離変換アルゴリズムと同じ
アイデアが,それ以外のどのような距離に対して適用できるかが論じられた.
この方法は列ごとのスキャンと行ごとのスキャンの2段階から成り立っており,
特に第2段階の行ごとのスキャンの際には,多数の曲線の下側包絡線を求める操作が
加わる.この下側包絡線が意味をもつところが,この方法の特徴で,この特徴を
保持できる距離のクラスがどのようなものかが焦点となった.その結果,原点からの距離が<#377#>y<#377#>座標方向に単調であること,距離から得られる二つの曲線が高々1回しか
交わらないこと,などの特徴づけがなされ,軸対象な単位円をもつ距離ならそのような
性質をもつことが示された.この講演は,アルゴリズム工学の知見を,ディジタル
画像処理に応用するものであった.



4. 加藤直樹(京大)

「写真およびCADデータからの建築物3次元モデルの復元」

長方体であることがあらかじめわかっている建物の1枚の静止画からその建物の
立体形状を復元し,それを別の方向から見た画像を生成するための手法が提案された.
この手法では,まず3次元空間で互いに平行な直線をハフ変換を用いて抽出し,
次にこれらの消失点を求める.次に,その消失点を使って,画像とカメラレンズ中心
と建物の3次元配置を,拡大・縮少の自由度を除いて一義的に確定する.
最後に,これを任意の方向から見た画像を生成する.この手法の有効性が,多くの
実写画像を使った処理例を通して示された.この講演は,画像処理の実用的課題に,
アルゴリズムの技法を適用したものであった.


5. 浅野哲夫(北陸先端大)

「ランダムグリッドフィリングカーブとその応用」

多値画像を,その濃淡の印象をできるだけ保ったまま2値画像へ変換するという
課題に対して,空間充てん曲線を利用する解法が,この講演者らによってすでに
提案されているが,そのような曲線を2重に利用するためのランダムグリッド
フィリングカーブの作り方について提案され,その性質が論じられた.
この議論では,白と黒の碁石を,ある性質を満たすように碁盤に並べ,
その白と黒の境界をたどることによって目的のカープを構成するという技法が
使われる.この論法によって,フィリングカーブが存在するための必要十分条件が,
明解な形で示された.
この講演は,ディジタル画像処理における技術的課題に触発されたアルゴリズム
研究の成果であった.


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趙 亮
<最終更新作成日時 2000年9月27日 >