TOKUTEI: algorithm News Letter No.2
特定ニュース VOL.2 March 1999
目次
I.特定領域研究(B)「アルゴリズム工学」平成10年度活動記録

1. 総括班の活動

総括班では, これまでに予備会議を2回と班会議を1回開催した. 3月に今年度最後の班会議をもう一度行う予定である. これらの日時などは以下の通りである.

総括班班会議
予備会議第1回: 平成10年6月29日(京都)
予備会議第2回: 平成10年9月16日(京都)
第1回: 平成10年10月19日(京都)
第2回: 平成11年3月5日(福岡)
総括班班会議では, 主に本特定研究の今後2年半の活動計画について 話し合いを行った. 決定された主な事項は以下の通りである. より詳しい情報については, 総括班会議の議事録
http://www.kuamp.kyoto-u.ac.jp/labs/or/tokutei98/seminar/soukatsu981019.html
を参照のこと.

2. 全体の活動

全体的な活動としては, これまでに1回の全体会議を行っており, また, 今年度中に全体会議をもう1度と国際シンポジウムを共催する予定である. 第1回の全体会議では, 全ての研究代表者が, 現在の研究テーマと 本特定領域研究で計画している研究について講演を行った. 参加人数は60名程度であった. 第2回の全体会議では, 各班でこれまでに得られている暫定的な研究成果を 班ごとに総括して発表が行われる予定である. また, 「パラダイムとしてのアルゴリズム工学」と いう概念を明確にし, 今後2年間の研究の方向を定めることを目標に, パネルディスカッションを予定している. 国際シンポジウム「離散数学とその応用に関する日洪シンポジウム」 では, 3件の招待講演と, 39件の一般講演を予定している. これらの日程は以下の通りである.

全体会議
第1回: 平成10年10月19, 20日(京都)
第2回: 平成11年3月5, 6日(福岡)

国際シンポジウム共催
The 1st Japanese-Hungarian Symposium
on Discrete Mathematics and Its Applications
(第1回 離散数学とその応用に関する日洪シンポジウム)
平成11年3月17$\sim$19日(京都)
全体会議とシンポジウムのより詳しい情報は,
http://www.kuamp.kyoto-u.ac.jp/labs/or/tokutei98/seminar/seminars.html
を参照.

3. 電子情報通信学会の特集号

新しいパラダイムとしての「アルゴリズム工学」という我々の主張を 広め, また「アルゴリズム工学」の現状を説明するために, 電子情報通信 学会の英文論文誌に特集号を組むため, 以下の要領で企画が進行中である. 当領域研究に参加する研究代表者全員が著者としてそれぞれの専門分野における アルゴリズム工学の最近の知見をサーベイするとともに, 適切な著者がいない重要な分野については 外部からの招待論文を企画することで, すべてのアルゴリズム工学研究者にとって なくてはならない論文集とすることを目指している.

電子情報通信学会英文論文誌 平成12年3月号
ゲストエディタ: 茨木 俊秀, 山下 雅史
アソシエイトエディタ: 室田 一雄 , 渡辺 敏正, 加藤 直樹, 五十嵐 善英
体裁: 大特集 -- 本特集のみからなる号を発行する.
内容:アルゴリズム工学に関する様々な分野の招待サーベイ論文集.
予定:平成11年3月著者/題目決定, 7月脱稿, 9月査読終了, 12月最終稿

4. 平成10年度A01班活動/成果報告

平成10年度において,A01班は全体会議の際に各々班会議も同時に開催し,ま た班独自に12月に研究会形式の研究会を開催した.本年度が研究初年度にあた ることに鑑み,班として「アルゴリズム工学」共同研究推進を可能となるよう な運営を行なっている.以下,個別の会についてまとめる.

4.1. 平成10年度第1回班会議

日時:平成10年10月19日16:00-18:00
場所:京都大学数理解析研究所地下1階009号室
出席者:A01班研究代表者7名
内容:A01班の研究計画について討議した.「アルゴリズム工学」の活 動の1つの主眼であるアルゴリズムデータベース構築について,各班員 からデータベース構築への貢献について検討した.また,アルゴリズム データベースへの貢献に関する議論にそって,班全体で班員の研究分担 者や大学院生など研究協力者の間で共有するテーマで共同研究できる最 も有望なものとして,「TSP, スケジューリングに関するメタヒューリ スティック」,「劣モジュラ・行列など離散システム」の2点を決め, 次回班会議においてこのテーマに関して1テーマ当たり2件の講演を行なっ て,班としての研究を開始して推し進めることとした.

4.2. 平成10年度第1回研究会

日時:平成10年12月12日(土) 10:00-16:40
場所:京都大学数理解析研究所1階115号講義室
出席者:29名
内容: 以下のプログラムでA班での共同研究を目指した研究会を開催し,有意義な討論 を行なった.

10:00 - 11:10 岩田 覚 (大阪大学 基礎工)
『行列束に対する組合せ論的緩和法』

11:30 - 12:40 野々部 宏司 (京都大学 数理工学)
『資源制約付きスケジューリング問題の定式化と近似解法』

14:00 - 15:10 久保 幹雄 (東京商船大学 流通情報工学)
『巡回セールスマン問題に対する Lin-Kernighan 近傍をを用いた
Guided Local Search --大規模問題に対する実装法を中心として--』

15:30 - 16:40 室田 一雄 (京都大学数理解析研究所)
『離散凸解析のアルゴリズム』
本研究会は研究代表者全員を含め,29名からなる参加者を得て,A01班として 共同研究を進める土台として盛況なものであった.以下,参加者の学生の中, 東 京大学理学部情報科学科対馬壮君の報告を添付して,この研究会の各発表の内 容を紹介する.

[1]岩田 覚 (大阪大学 基礎工) 『行列束に対する組合せ論的緩和法』

○論旨
代数微分方程式系(DAE)で記述される動的システムの解析において,行 列束(matrix pencil)の指数(index)と呼ばれる量が重要な役割を果たし ている. 本報告では,行列束の指数を計算するための室田による組合 せ緩和アルゴリズムを紹介し,その改良に関する最新の成果を報告する.

○感想
DAEは,F(dx/dt)+Hx=Ψ(t)の形をした微分方程式.また,行列束は, A(s)=sF+Hという多項式形の行列のことをさす. ふつう,微分方程式と いえば,dx/dt=f(x,t)という正規形にして解くのが一般的だが,問題に よってはDAEで解いた方が解きやすい場合も多い.そのさい,微分方程 式の解の形を決定づける要因として,A(s)の指数が重要になってくる. しかし,指数の計算法は組合せ的な要素が高いため,効率的なアルゴリ ズムをつくるのは難しい.
この方法では,行列の次数計算を二部グラフにおとし,さらに,許容ポ テンシャルという量を考え,元の問題の制限を緩めた緩和問題を作り, 行列の指数という代数的な量を,組合せ的な量に変換して解こうという わけである.
行列に関する一部知識で不明なところもあったが,緩和問題を考えてそ の中で最適化を行ない,元の問題の解として適当なら,それが元の問題 の最適解になる,という緩和法のアイデアは,最適化全体でもよく見ら れる方法である.この方法にこのような応用ができることに驚いた.何 より,微分方程式を解くという連続系の分野においても,組合せ論が重 要になってくるという点が興味深かった.

[2]野々部 宏司 (京都大学 数理工学) 『資源制約付きスケジューリン グ問題の定式化と近似解法』

○論旨
資源制約付きスケジューリング問題(RCSP)は,多くのスケジューリング 問題を定式化できるという汎用性の高さから最近改めて注目を集めてい る.しかし現実の応用分野では,スケジュールの評価基準が複雑かつ多 様であるなど,従来のRCSPの枠組では扱うことのできない問題も少なく ない.そこで本研究では,広範なスケジューリング問題に対応できるよ う,RCSPの定式化を拡張するとともに,タブー探索に基づく近似解法を 提案し,計算実験によりその有用性を確かめる.

○感想
RCSPでは,資源の制約を,再生可能資源r(機械,人,仕事など)と, 再生不可能資源s(コスト,原材料など)に分け,また,作業の処理モー ドと,先行制約(ある作業は別な作業より前に完了させる,など)て定 式化するが,この定式化の拡張では,rの供給量・消費量を自由に設定 でき,また,段取り替え作業や,処理モードや処理時間,開始・終了時 刻の制約も考慮可能にすることで,多様・複雑な目的関数に対応できる.
ただ,あまりに制約が大きくなると,局所探索法での効率的な探索が困 難になってくるので,とりあえず資源制約と先行制約のみを満たす解を 探索し,それ以外の制約の違反度の小さいものを選んでいく,という方 法をとっていく.講演では,いくつかの問題例をあげて説明していた. 残念ながら,自分の興味の深い具体的なタブー探索の方法までは詳しく 聞けなかった.
この方法の基本方針になっているのは,「特定の問題に特化した解法を 作るのではなく,定式化の拡張を使えるように問題をうまく定式化して, さまざまな問題に幅広く応用したい」という考え方である.実際の応用 で解きたい問題は,それこそ多様化しているわけだから,このアプロー チはとても興味深かった.個人的には,スケジューリング問題に関して は,もう少しじっくり勉強してみたいと思っている.

[3]久保 幹雄 (東京商船大学 流通情報工学) 『巡回セールスマン問題 に対するLin-Kernighan 近傍を用いた Guided Local Search --大規模 問題に対する実装法を中心として--』

○論旨
(主にユークリッド型の)巡回セールスマン問題に対する最も強力な近傍 のひとつに,1973年に Lin と Kernighanによって提案されたもの (Lin-Kernighan 近傍)がある.Lin-Kernighan 近傍は強力ではあるが, Tabu Search, Simulated Annealingなどのメタ解法をベースにして大 規模問題に対して実装を行おうとすると,幾つかの問題が発生する.こ こでは,Guided Local Searchをベースにしたメタ解法が, Lin-Kernighan 近傍のような複雑な近傍と比較的相性が良く,大規模問 題に対する強力なメタ解法になる可能性があることを紹介する.

○感想
今回参加を決めた動機の講演で,期待に違わず興味深い話だった.ノー トPCでPowerPointを走らせて講演していたのだが,途中で自作のTSPソ ルバーを立ちあげて,実際に問題の解法を実演していて,プレゼンテー ションとして素晴らしいできだと思った.
話の中で,点データの構造としてK-d木が出てくるのだが,実は,K-d木 に関しては,学部演習で実際にプログラムした経験があるため,話が理 解しやすかった.あっと言う間に2-optが終了するのを見て,K-d木が効 率的な探索にきわめて有効であることがよくわかった.
また,LK法を「3-opt」+「深さ優先のTabu Searchを,2-opt近傍で行なっ たもの」と解釈すると良い,との話には,目から鱗が落ちた思いだった. 確かに,そう考えると,LK法がすでにメタ解法的性格を帯びているとい うことになるわけであり,その他のメタ解法との組合せがうまくいかな いのも納得できる.
今回の話の主題であるGuided Local Searchは,LK法のような複雑な近 傍に対しても相性がよい解法である.基本的な考え方は,「局所最適解 に陥ったら,目的関数の形を変形させて再探索させる」という方法であ る.この方法を用いると,局所探索法として2-opt近傍を用いた場合で も,0.5%増し程度の解が得られる.しかし,ふつうに実装すると,n^2 のメモリが必要になるので,近傍制限が必要になる.
また,Guided Local Searchでは,各枝に対してペナルティ関数という ものを考えるのだが,この実現のためにはCandidate Graphを用いて, どの枝のペナルティ関数を増加させるか決める.
なお,今回の講演で使ったPowerPointのデータと,最新版のTSPソルバーはhttp://www.logopt.comにある.

[4]室田 一雄 (京都大学数理解析研究所) 『離散凸解析のアルゴリズム』

○論旨
マトロイド,劣モジュラ関数に関するアルゴリズムを概観した後,M凸関 数,L凸関数に関するアルゴリズムの最近の成果を紹介する.マトロイド の抽象論を知らない人にも分かるように,行列やネットワークの言葉に翻 訳して説明をする.

○感想
残念ながらマトロイドの基礎部分の学習がまだなので,正直言ってよく分 からなかったところが多かった.ただ,M凸関数は,局所的最適解がかな らず大域的最適解になるという特性があり,しかもそれが多項式時間で判 定できるという点は便利かなと思った.このような幅広い分野の理解も含 めて,これからの研究を進めたいと思う.

4.3. 今後の予定

A01班平成10年度最終の班会議を全体会議の際に合わせて下記日程で予定している.

日時:平成11年3月5日(金) 12:00-13:30
場所:福岡ソフトリサーチパーク
参加人数:15名(予定)

5.平成10年度A02班活動/成果報告

平成10年度A02班の活動報告をお知らせいたします. A02班は6名の研究代表者(浅野孝夫(中央大学理工学部),戸田誠之助(日本大文学 理学部),周暁(東北大学情報科学研究科),永持仁(京都大学工学研究科),平田 富夫(名古屋大学工学研究科),渡辺敏正(広島大学工学部)) およびその研究分担者より構成されています.
主な研究対象は離散最適化問題の中でも特殊な構造をもち かつ基礎的であるグラフ・ネットワーク問題とSAT(充足可能性問題)であります. 平成10年度はアルゴリズム工学の立場から以下のように研究集会を開催し, グルー プ内の研究者および他のグループとの情報交換を行ない,共通の目的意識を形成しま した.

第1回研究集会
日時:平成10年10月19日(月),16:00 -- 17:45
場所:京都大学8号館413会議室
出席者:5名(浅野孝夫,周暁,永持仁,平田富夫,渡辺敏正)
内容:
1.同日,午前10時から12時に開かれた総括班会議の報告,特に,アル ゴリズム工学の研究目標,期待される研究成果について共通理解の必要 とされていることが強調された.
2.アルゴリズム工学の立場から実用に供するためのアルゴリズムのデー タベースに関して議論がなされた.
    (i) 最大フロー問題等の基礎的なアルゴリズムも用意するか,
    (ii) 既存のシステム,たとえば,LEDAなどを利用するか,
    (iii) 教育用のプログラム(デモ)を用意するか,
    (iv) 開発のプログラム言語はC++にするか
などのワーキンググループで検討すべき課題が出された.
3. 今後のA02班の会議計画をたて,次回以降には分担者も参加してもらうことにした.

第2回研究集会
日時:1999年1月26日(火)13:30-18:00
場所:名古屋大学豊田講堂第2会議室
出席者:14名(浅野孝夫,永持仁,渡辺敏正,周暁,谷聖一,戸田誠 之助,藤戸敏弘,草苅良至,上原隆平,元木光男,西田剛,平田富夫, 小野孝男,磯直行)
内容:
今後の班活動の方向を確認し, 共同研究を推進するために研究参加者に よるチュートリアルを以下のプログラムに従って行なった. 内容は近似 アルゴリズムとグラフアルゴリズムに関する発表が主となった. 充実し たディスカッションを目指して発表中も随時質問を受ける形式とし, 会 議終了後のlamp sessionも行った.
  1. Efficient Parallel Algorithms on Generalized Chordal Graphs 上原隆平(駒澤大)
  2. 半定値計画法による近似アルゴリズム(基本形) 平田富夫(名 大)
  3. 半定値計画法による近似アルゴリズム(応用) 浅野孝夫(中央 大)
  4. 単一解を持つ3SAT例題の生成 元木光雄(東工大)
  5. Not-All-Equal SAT におけるローカルサーチの効率化について 西田剛(東工大)
  6. 劣モジュラ被覆問題の近似アルゴリズムとその応用 藤戸敏宏 (広島大)
第3回研究集会
3月5日(金)11時30分から13時,10人(上原,谷,陳,戸田,周,草 刈,平田,小野,永持,浅野)の出席のもとで福岡で開催の予定です.

5.平成10年度A03班活動/成果報告

第1回会合
平成10年10月19日(月曜日)午後4時〜6時
場所:京都大学工学部
参加者:浅野(哲夫),杉原厚吉,徳山豪,加藤直樹,今井桂子,玉木久 夫,中野眞一,藤澤克樹
最初のミーティングということで,主として今後の研究の進め方に ついて話し合った.事務的には浅野がまとめ役をすることになった. 最終的な結果が世間にアピールするものであるためには,実際的な 問題に対してデモができるような形での実際的な解(アルゴリズム) の開発が肝要であるという考えで一致した.また,アルゴリズムデータ ベース作成という観点からも,アルゴリズム開発環境を班全体で統一 する必要があるということで共通の認識を得ることができた. とにかく研究を各グループで開始し,成果が得られ次第電子メールなどを 通じて班全体で共有して行こうということになった.
第2回会合
平成11年1月26日(火曜日)午後1時〜6時
場所:ホテルアソシア豊橋(愛知県豊橋市)
参加者:浅野(哲夫),杉原厚吉,徳山豪,加藤直樹,今井桂子,中野眞 一,小保方幸二
具体的にアルゴリズム記述方法を統一するという立場から,とりあえず ドイツのマックスプランク研究所で開発されたアルゴリズム記述言語で あるLEDAを班全体で勉強するために,デモプログラムを用いた説明会を 開いた.この言語の特徴は,計算幾何学でよく使われるボロノイ図や 三角形分割などを求める基本的な手続きが多数既に実装されているので, 単にそれらを組み合わせるだけで高度なアルゴリズムを実現できる所に ある.LEDAについての概略的な知識を得た後,各グループでの研究テーマ の紹介を行い.グループ間で協力できることがないかどうかを検討した. LEDAについては, 出席者の間でのアルゴリズムの交流, 交換に非常に 便利だということで意見が一致し, 各研究機関でLEDAのインストールを 始めることになった.
さらに, 班全体での研究交流のために, 共通の研究テーマを設定する ことで意見が一致した. 共通のトピックスとしてな, 計算幾何学の 最も基本的な技報である三角形分割である. CGへの応用, 建築への 応用, 有限要素法への応用, 高次元での三角形分割などが当面の 目標として設定された.

6.平成10年度A04班活動/成果報告

特定領域研究(B)「新しいパラダイムとしてのアルゴリズム工学」 A04班 ( 並列/分散アルゴリズム ) の主な活動は, 班会議を開催したことである.
第 1 回 A04班 班会議は, 次の日時および場所で行った.

日時 平成 10 年 10 月 31 日 (土) 9:00 〜 13:10
場所 東北大学工学部電気情報系453会議室
出席者は 15 名であった.
午前中, 次の 3 件のチュートリアルが行われた.
  1. 分散アルゴリズムの故障耐性:自己安定性と無待機性
    増澤 利光,井上 美智子 (奈良先端大)
    概要:本稿では, 故障耐性を有する分散アルゴリズムのパラ ダイムとして, 自己安定アルゴリズム, 無待機アルゴリズムを紹介し, 最近のいくつかの研究動向を述べる.
  2. 格子基底問題に基づく公開鍵暗号の現状と課題
    櫻井 幸一 (九大)
    概要:格子を利用した公開鍵暗号の構成とその安全性に関 する最近の結果を報告する.
  3. PVMについて
    藤原 暁宏 (九工大)
    概要:本稿では, 計算機クラスタを用いて並列処理, 分散 処理を手軽に実現する方法の1つである PVM(Parallel Virtual Machine)を紹介する.

昼食後, 「A04班の今後の活動について」話し合いが持たれた. 各チュートリアルの詳細および第 1 回 A04班 班会議の審議事項は, 成果報告書の「チュートリアル」「第 1 回 A04班 班会議議事録」を参照され たい.
第2回 A04班 班会議は, 平成10年度第2回全体会議に合わせて, 次の日程および 場所で開催する予定である.

A04班の今後の活動について話し合う予定である. 特に, アルゴリズムのデータベース化について, 題材, 実現のための問題点などを話し合う予定である.
また, 平成10年度第2回全体会議において, 3 月 6 日(土)に報告される A04班活動報告では, 次の 2件の発表が予定されている.
  1. 量子計算の可能性と限界
    岩間 一雄 (京大)
    概要:本論文では1.5方向量子有限オートマトンを導入し, 最 も基本的な決定問題である空集合問題が, このモデルに対し非可解で あることを示す.
  2. 実並列 / 分散システムへのアルゴリズムの適用
    藤田 聡 (広島大), 山下 雅史 (九大)
    概要:We talk about on-going works for designing algorithms for real parallel/distributed systems; a multiprocessor scheduling algorithm for parallelizing compiler and distributed algorithm for two robots carrying a ladder.
A04班の平成10年度の研究成果は, 次の通りである.
  1. 論文および国際会議 54 編
  2. 研究会等 28 編
  3. 学会等 3 編
詳細は, 成果報告書の「A04班研究業績一覧」にまとめた.
II.シリーズ: 研究班の紹介 -その1-
A01班「離散最適化アルゴリズム」の紹介

本研究グループの研究項目は離散最適化アルゴリズムであり,本特定領域研究 (B)「アルゴリズム工学」研究全体に深く関わるもので,他のグループとも密 接な関係をもちながら,A01班内ではこのテーマそのもののさらなる理論の深 化により一般性のある離散最適化理論の構築と,それに裏打ちされた実用アル ゴリズムの開発を行なうことを目指している.ここでは,ニュースレターで班 を紹介するということで,主にA01班にある7つのグループの構成メンバと研究 テーマの紹介を行なっていく.これらの7つのグループが班全体として有機的 に共同研究を進めている様子については,本ニュースレターのA01班の初年度 報告に詳しく書かれているのでここでは繰り返しは述べない.
以下,A01班は7グループからなり,室田一雄班長のグループから始めて各グルー プを紹介する.本文の文責は,副班長の今井浩にある.

離散凸解析を軸とする離散最適化アルゴリズム
研究代表者: &室田 一雄 (京都大学数理解析研究所, A01班班長)
研究分担者: &降旗 大介 (京都大学数理解析研究所)
塩浦 昭義 (上智大学理工学部)
研究内容  本研究グループでは, 代表者が近年提案した「離散凸解析」の理論体系 を基礎として, 一般の組合せ最適化問題を解く実用的なアルゴリズムの 構築を目指している. 本研究班の目標到達までの過程は, (i) 理論の構築, (ii) アルゴリズムの開発, (iii) 計算機実験による評価, の3段階に分けられ,特に初年度においては(i)が重点的に進められて 成果上げている. 具体的には,離散凸解析は, 元来, 整数格子点上で定義された整数値関 数に関する理論であったが, ごく最近の研究により,滑らかな実数値関 数に関しても, 解析的視点と組合せ的視点の融合が有効であることが分 かってきており,本年度はこの研究をさらに進め, 従来の「離散凸解析」 を含む枠組みとして「組合せ凸解析」の理論体系を構築した.

多目的離散最適化に対する近似解法の研究
研究代表者: 石井博昭 (大阪大学大学院工学研究科)
研究分担者: 斎藤誠慈 (大阪大学大学院工学研究科)
塩出省吾 (神戸学院大学経済学部)
研究内容  多目的離散最適化の近似解法として新しい探索法の開発に早速取り組ん でいる.特に多目的スケジュ−リング問題に対して,分枝限定法とビ− ムサ−チを基にした解法の理論的枠組みを現在開発中である.手始めと して,研究代表者の石井が主となって多目的フロ−ショップに対してそ のアルゴリズムを考察している.他にもネットワーク信頼度に関した多 目的版への準備,連続的凸解析手法を通じた一般的数理計画の基礎の確 立,さらに現在緊急に問題解決が必要な焼却場の立地問題に応用すべき 多目的配置問題などについても検討を進めている.

メタ・ヒューリスティクスによる計算困難問題の 解決に関する研究
研究代表者: 茨木 俊秀 (京都大学情報学研究科)
研究分担者: 柳浦 睦憲 (京都大学情報学研究科)
研究内容  この研究では,社会や産業界で解決を求められている多くのNP困難問題 に対し,近似解を実用的に効率よく求めることを目的に,メタ・ヒュー リスティクスの枠組みの下でアルゴリズムを開発している.とくに,汎 用性に注意し,現実に現れる広範囲の問題の解決に役立つよう代用的な 組合せ最適化問題を選び,最終的にソフトウエアの形で提供することを 目指している.得られたアルゴリズムは,本特定研究の成果物となるア ルゴリズム・データベースに置き,一般の利用に供す予定である.特に, 資源制約プロジェクトスケジューリング問題については,現実制約への 対応をしたアルゴリズムが構築されつつある.

離散システム不変量計算に関する研究
研究代表者: 今井浩 (東京大学理学系研究科, A01班副班長)
研究分担者: &稲葉真理 (東京大学理学系研究科)
浅井健一 (東京大学理学系研究科)
研究内容  単体的複体構造のもつ離散的不変多項式が様々知られており,それが広く統計 物理や結び目・絡み目理論の不変量とも関係することがわかっている.本研究 では,一般にこれらの離散システムが大規模な場合には厳密に計算することが 難しいとわかっている点を,なんとか構造を活用して実用上要望のある中規模 サイズまでなら不変量が実際に計算できることを目指している.ネットワーク 信頼度計算などで,成果を上げている.

階層的積木法と集中化・多様化制御法 --メタ解法 の2つの新しいフレームワーク--
研究代表者: 久保幹雄 (東京商船大学流通情報工学課程)
研究内容  本研究では,困難な組合せ最適化問題に対する高精度な解を短時間で 求めるためのヒューリスティックスのパラダイムであるメタ解法について 研究を進めている. 具体的には2つのフレームワークを提案しており, 1つめは階層的積木法とよばれ, その設計の基本になるのは「積木仮説」を拡張した「階層的積木仮説」である. 2つめは集中化・多様化制御法とよばれ, その設計の基本になるのは,集中化と多様化の概念である. これらの2つのメタ解法のフレームワークは, 従来のメタ解法を部品としてさらに頑強なメタ解法を設計するときに用いられる. 特に,集中化・多様化制御法は,比較的単純な構造をもつ問題に対して有効であり, 階層的積木法は,複雑な実際問題に対して有効である.

離散最適化アルゴリズムの計算効率と離散構造
研究代表者: 藤重 悟 (大阪大学基礎工学研究科)
研究分担者: 岩田 覚 (大阪大学基礎工学研究科)
牧野和久 (大阪大学基礎工学研究科)
研究内容  離散構造を有するシステムの最適化問題が容易に解けるか否かは,その 対象となるシステムの構造に強く依存する.比較的容易に解ける問題の 組合せ的あるいは代数的, ブール関数的構造については,これまでにマ トロイド構造や劣モジュラ構造というような離散的な構造が深く関係す ることが知られているが, それだけでは説明のつかない問題も数多い. したがって, 比較的容易に解ける問題の構造的性質をさらに詳細に吟味 し, その構造を明かにし, 効率的なアルゴリズムを設計するための統一 的な指針を与えることが本研究班の目的である. この成果は, 解くこと が難しい問題に対してもその近似アルゴリズムを設計し, その性能を高 めるために役立つ情報を提供すると期待される.

離散最適化問題における構造と計算量
研究代表者: 増山 繁 (豊橋技術科学大学知識情報工学系)
研究分担者: 伊藤 大雄 (豊橋技術科学大学情報工学系)
市川 周一 (豊橋技術科学大学知識情報工学系)
研究内容 
本研究グループでは,全体で離散最適化問題における構造と計算量に関 する研究を,様々な問題に対して展開している.具体的には,AGVシス テムのモデル化と解析,構文解析アルゴリズム,またグラフ・ネットワー ク問題の構造に着目した解析とアルゴリズムの分野ではさらに具体的に イントーナメントグラフ上の並列アルゴリズム,グラフの表現法とアル ゴリズム,等高線表現された画像に対する問題,高度通信網のモデル化 とアルゴリズム,領域グラフとNA連結性について論じ,また離散幾何学 上の問題については,ハムサンドイッチ定理の一般化,舞台照明問題に ついて研究を進めた.さらに,離散最適化手法を用いた並列処理の高速 化に関する研究では,ソフトウェア・ハードウェアのモデル化も行なっ ている.


III.国際会議参加報告 -ISSAC'98 & SODA'99-

ISAAC'98
伊藤大雄(豊橋技術科学大学)

Ninth Annual International Symposium on Algorithms and Computation (ISAAC'98)は1998年12月14--16日の3日間, 韓国は大田(Taejon)のHotel Rivieraで 開催された. 日本からもこの特定領域研究の関係者を中心として非常に多くの参加者 があったが, 茨木俊秀先生(京都大学)と玉木久夫先生(明治大学), 周暁先生(東 北大学), 私の四名がこの科研費から旅費の補助をいただいて参加した.
大田はソウルから全席指定の特急セマウル号で約1時間半南下した所にあり, ガイド ブックによると忠清南道の道庁所在地で人口120万人の大都市だそうだ. 韓国の冬は 寒いと聞いていたが, 到着してみるとさほどではなく, 地元の人間に 聞いてみると前日まで寒かったがその日から急に暖かくなったとのことだった. 確か にどの建物も二重窓であることが普段の寒さを物語っている(日本じゃあ二重窓は北 海道ぐらいだもんね). 会場のリビエラホテルは大田の西方郊外の儒城温泉にある五つ星の最高級ホテル. 宿 泊室内にはオンドルが効いていて, これがとても暖かく, 夜なぞは毛布が要らない程 だった. 空調による暖房と違って風が当たったりすることも無いし, 日本もこの暖房 システムと二重窓を取り入れるべきだと思った(かなりの省エネが期待できる).
今回講演数は招待2件を含んで49件で, 2つのパラレルセッションがあった.
Stephan Eidenbenz氏は美術館問題(art gallery problem)における頂点監視(vertex guard), 辺監視(edge guard), 点監視(point guard)の3問題が, どれもP≠NP の前提において, ある実数ε > 0に対し1 + ε近似の多項式時間算法が存在し ないことを証明していた. 証明法はMAXSNP完全であるsc 5-Occurrence-3-Sat を帰着していたが, 視覚的で面白かった.
実用的な意味で興味を持ったのが, Boris Aronov氏らの提案した, 三角形の集まりで 表現された地平上での設備配置問題(1-center問題)に対する高速算法である. 最近 のコンピュータゲームは実時間でポリゴン画像を計算, 表示していくので, こういっ たアルゴリズムが大いに役立つに違いない.
どの発表もさすがに水準が高く, こういう会議に出席するのは, やはり楽しい. 次回 はインドで12月16--18日に開催される予定だが, この日取りは我が学科の卒論発表日 (豊橋技科大は12月にやります)と見事に重なっているので次回は残念ながら来られ そうに無いが, 今後もなるべく頻繁に参加し続けようと思っています.

SODA'99
加藤 直樹 (京都大学工学部)
玉木 久夫 (明治大学理工学部)

第10回ACM-SIAM 離散アルゴリズムシンポジウム(SODA'99)は アメリカ合州国メリーランド州ボルチモア市において 1月17日から19日にかけて開催された.
SODA'99は今年から新しい試みでlong paper(10ページ) とshort paper( 2ページ)に二つにわけたため従来の倍以上の数の講演があった. より多くの参加者を集めようという主催者の意図であろう. (なおこの試みは来年も継続されるそうである. ) その効果として 確かに多くの出席者があったため賑やかな感じがした. しかし,4つのパラレルセッション,一件あたり発表時間 17分ということもあり,お祭りに近い印象も受けた. また,論文の質という点でバラツキも見られた.
招待講演は, Scott Shenkerの ``Game Theory and Computer Networks'' と Carsten Thomassen の ``A Second Hamiltonian Cycle'' の2件であった. 前者は, 情報化社会の急激な展開のなかに何とか理論的な研究課題を 見い出して, 貢献していこうとする計算理論コミュニティの最近の姿勢, 後者は, 知的興味を最大の価値基準とする離散数学の伝統的な研究姿勢を それぞれ代表して, このシンポジウムの性格をよく反映していた. Shenker の講演は絶妙な語り口で, 「ネットワークのプロトコルの 設計は, ユーザの生悪説に立って行なうべきで, 従ってゲーム理論に 基づかなければならない」という主張を可能な限りの説得力で論じたが, これまでの結果から見る限りこのアプローチの有用性は未知数であると 感じられた. Carsten Thomassen の講演は, 彩色多項式のゼロ点との 関係から説きおこし, なぜ2番めのハミルトン閉路の存在が面白い問題 かということを十分に納得させる内容であった. しかしながら, 欲を言えば 招待講演のテーマとしては, 今少し迫力不足の感もあった.
一般講演は多岐多様にわたり, 傾向を総括するのは難しいが, 計算幾何の セッションが7(全46セッション中)あったのは目をひいた. 一般講演は前述のように4本のパラレルセッションであることから (さらに時差のハンディもあり), 一部しか聞くことができなかったので, この印象は偏っている可能性があるが, 全体として驚くべき結果や斬新な アイディアはそれほど見当たらず, かなり技術的な印象を受けた.
最後に, 報告者らの印象に残った講演を2, 3挙げる. これは報告者らの 個人的な興味に基づくもので, 講演や論文の優劣とは直接の関係が ないことは言うまでもない.


梅谷 俊治
<最終更新作成日時 1999年8月3日 >